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名古屋地方裁判所 昭和33年(ワ)398号 判決

主文

一、被告加藤徳治は原告のために

別紙第一目録記載の一ないし七及び九

別紙第二目録記載の三

別紙第三目録記載の一及び三

別紙第四目録記載の一ないし三

の各土地についてなされた名古屋法務局古沢出張所昭和三〇年一月一二日受付第三三〇号による所有権移転登記の抹消登記手続をなせ。

二、被告小林ヤエコ、同小林弘恵は原告のために、別紙第二目録記載の一の土地につき、同被告等の被相続人小林金次のためになされた名古屋法務局古沢出張所昭和三二年一一月一日受付第一九三〇七号による所有権移転登記の抹消登記手続をなせ。

三、被告東しまは原告のために、別紙第二目録記載の二の土地についてなされた名古屋法務局古沢出張所昭和三二年九月七日受付第一六一七九号による所有権移転登記の抹消登記手続をなせ。

四、被告加藤徳治は原告のために、別紙第三目録記載の一及び三の土地についてなされた名古屋法務局古沢出張所昭和三三年二月二四日受付第三〇九八号による共有物分割登記の抹消登記手続をなせ。

五、被告加藤竹二は原告のために、別紙第三目録記載の二の土地についてなされた名古屋法務局古沢出張所昭和三三年二月二四日受付第三〇九九号による共有物分割登記の抹消登記手続をなせ。

六、被告加藤竹二は原告のために、右四及び五の登記手続がなされた後、別紙第三目録記載の一ないし三の土地についてなされた名古屋法務局古沢出張所昭和三二年一二月二〇日受付第二二六二九号による所有権一部移転登記の抹消登記手続をなせ。

七、被告加藤徳治は原告のために、右二ないし六の各登記がなされた後、

別紙第二目録記載の一及び二

別紙第三目録記載の二

の各土地についてなされた名古屋法務局古沢出張所昭和三〇年一月一二日受付第三三〇号による所有権移転登記の抹消登記手続をなせ。

八、被告加藤志うこは原告のために、

別紙第一目録記載の一ないし七

別紙第二目録記載の三

別紙第三目録記載の三

別紙第四目録の記載の二

の各土地についてなされた名古屋法務局古沢出張所昭和三〇年一〇月五日受付第一六七九五号による所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をなせ。

九、原告のその余の請求を棄却する。

一〇、訴訟費用は一〇分し、その九を被告加藤徳治の負担とし、その一をその余の被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一ないし第七項同旨(但し請求の趣旨第四項に、「別紙第三目録記載の一及び二」とあるは、「別紙第三目録記載の一及び三」の誤記、同第七項に「別紙第三目録記載の一ないし三」とあるは「別紙第三目録記載の二」の誤記(これは請求の趣旨第七項は請求の趣旨第一項と別紙第三目録記載の一及び三の土地の点において重複しているからである)と認める)、被告加藤志うこは原告に対し、別紙第一目録記載の一ないし七及び九の土地、別紙第二目録記載の三の土地、別紙第三目録記載の三の土地、別紙第四目録記載の二の土地につきなされた名古屋法務局古沢出張所昭和三〇年一〇月五日受付第一六七九五号による所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告等の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は名古屋市熱田区森後町一丁目二五番宅地三二九坪外五筆の土地(仮換地四〇七坪)と別紙第一目録記載の土地を所有していたところ、これらを売却して幼稚園々舎及び寺院本堂を建設することを計画し、昭和二九年一一月上旬頃その事務を訴外渡部重夫に依嘱し、先ず右四〇七坪の土地を売却してその代金を以つて幼稚園々舎を建設し、それが完成した後別紙第一目録記載の土地を売却して寺院本堂を建設することを依頼した。

渡部重夫は右事務を訴外中神三郎に交渉した結果、中神三郎、奥山範隆、笹田和夫、被告加藤徳治が取締役、渡部重夫が監査役をしている株式会社中神商店が右事務を行うこととなり、同商店の役員等が共に右事務に当ることとなつた。

二、そこで先ず右四〇七坪の土地を処分することになつたが、早急に買手が見付からなかつたため、一先ずこれを担保に入れて金借し、その金を以つて綿糸を買入れて他に販売し、その売上金を以つて幼稚園々舎を建設することとなつた。よつて原告は昭和二九年一一月二〇日右土地に抵当権を設定するため、印鑑証明、委任状、抵当物件目録書、土地登記簿謄本を奥山範隆に交付したが、その後中神三郎らより右土地が原告の所有名義では担保に入れることができないから、株式会社中神商店の所有名義にしてくれとの申出があつたので、原告は右土地の売買契約書、委任状、印鑑票等に捺印してこれを奥山範隆に交付した。かくして右土地は株式会社中神商店の所有名義に変更せられることとなつたのであるが、後日判明したところによれば、右土地は中神商店名義に所有権移転登記がなされず、中神三郎個人の名義に所有権移転登記がなされていた。

三、昭和二九年一二月二六日原告代表役員奥田二恵は訴外池田辰二らより幼稚園々舎及び寺院本堂の建設に関する世話料として奥田二恵所有の土地三筆を喝取せられたので、その翌日奥山範隆、笹田和夫及び被告加藤徳治に右池田辰二らの恐喝行為に対する防禦対策を相談したところ、奥山範隆、笹田和夫らは、別紙第一目録記載の土地を池田辰二らに奪われないようにするため、右土地に対して保全登記をしておくがよいと申出でた。よつて原告代表者は、右土地を何人にも譲渡する意思はなかつたのであるが、池田辰二らより右土地を喝取されることを防ぐためと、又右不動産の処分を訴外渡部重夫及び株式会社中神商店以外の者には委任しない趣旨で、右土地に所有権移転請求権保全の仮登記をすることとし、その登記に必要な書類(丙第二号証)に署名捺印してこれを奥山範隆、笹田和夫及び被告加藤徳治に交付した。従つて原告としては被告加藤徳治に対し右土地の所有権移転登記をする意思はなかつたものであり、丙第二号証の売渡証書は原告代表者の錯誤によつて作成せられたものである。

又原告は昭和三〇年二月九日中神三郎らより土地売却による税金の対策上必要があるからと云われて不動産売買契約証書二通(甲第三一、三二号証の正本)を作成して同人らに交付した事実があるが、これは税務署へ提出するために作成した書類で、真実売買をしたものではない。

四、以上の理由により原告は別紙第一目録記載の土地を何人にも売渡した事実がないのに拘らず、右土地につき、昭和三〇年一月一二日名古屋法務局古沢出張所受付第三三〇号を以つて被告加藤徳治のために所有権移転登記がなされている。よつて右所有権移転登記は登記原因を欠く登記として無効である。

五、被告加藤徳治は右所有権移転登記後、別紙第一目録記載の土地に対し左の登記をした。

(1)別紙第一目録記載の土地全部につき昭和三〇年一〇月五日名古屋法務局古沢出張所(以下皆同じ)受付第一六七九五号を以つて被告加藤志うこのために所有権移転請求権保全の仮登記をなした。

(2)同目録記載の八の土地を左の二筆に分筆した。

A、名古屋市熱田区森後町一丁目二二番の三

宅地 一二二坪九合

(これが後に別紙第二目録記載の一、三に分筆せられる)

B、右同所二二番の六

宅地  五三坪七合五勺

(別紙第二目録記載の二の土地)

(3)右Bの土地につき昭和三二年九月七日受付第一六一七九号を以つて、被告東しまのために売買による所有権移転登記をした。

(4)右Aの土地を昭和三二年一一月一日左の二筆に分筆した。

(イ)名古屋市熱田区森後町一丁目二二番の三

宅地  七一坪六合九勺

(別紙第二目録記載の一の土地)

(ロ)同所二二番の七

宅地  五〇坪四合

(別紙第二目録記載の三の土地)

(5)そして右(イ)の土地を昭和三二年一一月一日受付第一九三〇七号を以つて被告小林ヤエコ、同小林弘恵の被相続人小林金次のために売買による所有権移転登記をした。

(6)同目録記載の一〇の土地につき、昭和三二年一二月二〇日受付第二二六二九号を以つて、被告加藤竹二のために全所有権の一七、〇〇〇分の六、三〇七の所有権一部移転の登記をなし、

(7)昭和三三年二月二四日右土地につき左のとおり共有物分割登記をした。

(イ)受付第三〇九八号

名古屋市熱田区森後町一丁目二四番

宅地  八四坪二合六勺

(別紙第三目録記載の一の土地)

被告加藤徳治所有

(ロ)受付第三〇九九号

同所二四番の三

宅地  六三坪七勺

(別紙第三目録記載の二の土地)

被告加藤竹二所有

(ハ)受付第三〇九八号

同所二四番の四

宅地  二二坪六合七勺

(別紙第三目録記載の三の土地)

被告加藤徳治所有

(8)同目録記載の一一の土地を昭和三三年二月二四日別紙第四目録記載のとおり分筆登記をした。

六、別紙第一目録記載の土地についてなされた被告加藤志うこ名義の所有権移転請求権保全の仮登記は現在

別紙第一目録記載の一ないし七及び九

別紙第二目録記載の三

別紙第三目録記載の三

別紙第四目録記載の二

の各土地に残存し、他は抹消された。

七、以上被告加藤志うこ、同加藤竹二、同東しま及び被告小林ヤエコ、同小林弘恵の被相続人小林金次のためになされた各登記はいずれも被告加藤徳治の無効なる所有権取得登記を前提とするものであるから、すべて無効である。

八、小林金次は昭和三九年八月一五日死亡し、被告小林ヤエコ、同小林弘恵が相続した。

九、よつて被告らに対し右各登記の抹消登記手続を求めるため本訴請求に及んだ。

と述べた。

被告加藤志うこ、同加藤竹二、同東しま及び被告小林ヤエコ、同小林弘恵の被承継人小林金次は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、同被告らのために原告主張の土地に、その主張の如き登記がなされていることは認めるが、同被告らはいずれも右土地をその所有者被告加藤徳治より適法に買受け又は売買予約(被告加藤志うこ)をなして右登記をなしたものである。原告主張のその余の事実は不知或は否認する、と述べた。

被告加藤徳治は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、

一、被告加藤徳治が別紙第一ないし第四目録記載の土地につき、原告主張の如き登記をなしていることは認める。

二、被告加藤徳治が別紙第一目録記載の土地につき所有権取得登記をなしたのは次の経緯によるものである。

原告はその主張する四〇七坪の土地及び別紙第一目録記載の土地を所有していたが、これを株式会社中神商店に譲渡し、同商店はこれを他に売却してその代金を以つて原告のために幼稚園々舎を建設することとなつた。かくして右土地は株式会社中神商店の所有となつたものであるが、被告加藤徳治は右中神商店から幼稚園々舎建築契約締結のため早急に金がいるから、右四〇七坪を担保として金を貸してくれと依頼された。よつて同被告は昭和二九年一二月三日原告代表役員奥田二恵と面接し、その同意を得たので、右土地を担保(登記は所有権移転請求権保全の仮登記)として中神商店に金四一万円を貸与した。

その後昭和二九年一二月二二、三日頃に至り、被告加藤徳治は再び中神商店より、幼稚園々舎建築のために金一五〇万円入用であるから、別紙第一目録記載の土地を坦保として金を貸してくれと依頼された。よつて同被告は右土地を譲渡担保にするならば金を貸してもよいと答え、中神商店もこれを承諾したが、当時右土地は原告名義に登記されたままになつていたので、同被告はその後中神商店において原告代表役員奥田二恵及びその叔父上原喜作に面接して、同被告が右土地を譲渡担保として中神商店に金融することに同意するかを尋ねたところ、原告代表役員らはこれに同意し、且つ右土地について中間省略して原告より直接被告加藤徳治に所有権移転登記をなすべきことを約束した。よつて同被告は同月二七日原告代表役員等と共に一宮市に赴き渡部重夫の諒解を得たうえ、原告代表役員方へ行つて、右土地の所有権移転登記に必要な契約書(丙第二号証)及び附属書類を作成した。

かようにして被告加藤徳治は株式会社中神商店より別紙第一目録記載の土地を譲渡担保として譲受け、且つその登記手続に要する書類も原告より交付を受けたので、翌二八日中神商店に対し金一五〇万円を貸付け、同商店からその振出にかかる金額一五〇万円、支払期日昭和三〇年二月三日の約束手形(丁第三号証)の交付を受けた。そして右土地については昭和三〇年一月一二日所有権移転登記をなした。

三、前記四〇七坪の土地を担保として中神商店に貸付けた金四一万円の貸金債権は、その後中神商店が右土地を他に売却したので、これに対する担保を解除し、別紙第一目録記載の土地を以つてこれを担保することにした。

なお、被告加藤徳治は以上の貸金の外に、金六六万円及び金一一万一、三八〇円を株式会社中神商店に貸付けた。

四、被告加藤徳治と株式会社中神商店との間には、中神商店が右四口の貸金を弁済期に返済しないときは別紙第一目録記載の土地を右貸金に対する代物弁済をなし、これを被告加藤徳治の完全なる所有とする旨の契約が成立し、これについては原告の代理人渡部重夫も同意した。

然るところ、株式会社中神商店は右貸金を弁済期に返済しなかつたので、右土地は代物弁済として被告加藤徳治の完全な所有となつた。

五、右貸金は被告加藤志うこより出金せしめて被告加藤徳治が中神商店に貸付けたものであるが、中神商店がこれを返済しなかつたので、被告加藤徳治は右中神商店に対する債権を被告加藤志うこに譲渡し、同被告のために右土地につき売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記をした。

六、なお、被告加藤徳治は一時株式会社中神商店の取締役となつたことがあるが、同商店の経営には何等関与せず、そして昭和三〇年四月上旬辞任した。被告加藤徳治は原告の幼稚園々舎建設事務には何等関与していない。

と述べた。

(証拠関係)(省略)

(別紙)

第一目録

一、名古屋市熱田区森後町一丁目一六番

宅地 二一二坪九合

二、同所一七番

宅地 二五五坪一合一勺

三、同所一七番の四

宅地 一四五坪一合

四、同所二一番

宅地 一九五坪二合六勺

五、同所二一番の二

宅地  九五坪

六、同所二二番

宅地 三七九坪六合六勺

七、同所二二番の二

宅地 八九坪九合八勺

八、同所二二番の三

宅地 一七五坪八合四勺

九、同所二二番の四

宅地  九三坪六合

一〇、同所二四番

宅地 一七〇坪

一一、同所二四番の一

宅地 一二九坪四合

第二目録(第一目録の八の土地を分筆したもの)

一、名古屋市熱田区森後町一丁目二二番の三

宅地 七一坪六合九勺

小林金次所有名義

二、同所二二番の六

宅地 五三坪七合五勺

被告東しま所有名義

三、同所二二番の七

宅地 五〇坪四合

被告加藤徳治所有名義

第三目録(第一目録一〇の土地を分筆したもの)

一、名古屋市熱田区森後町一丁目二四番

宅地 八四坪二合六勺

被告加藤徳治所有名義

二、同所二四番の三

宅地 六三坪七勺

被告加藤竹二所有名義

三、同所二四番の四

宅地 二二坪六合七勺

被告加藤徳治所有名義

第四目録(第一目録の一一の土地を分筆したもの)

一、名古屋市熱田区森後町一丁目二四番の一

宅地 九二坪六合一勺

二、同所二四番の五

宅地 二九坪六合二勺

三、同所二四番の六

宅地  七坪一合七勺

以上加藤徳治所有名義

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